マクドナルドの熱すぎるコーヒー訴訟
更新日:2017/09/08
アンカリンク効果で、よく引き合いに出されるのが、マクドナルド・コーヒー事件の賠償金だ。
1992年にアメリカの79歳のステラお婆さんが、マクドナルドのドライブスルーで買ったコーヒーを、両膝の間に挟んで、キャップを開けた。
そうすると中のコーヒーが太ももに飛び散って、それが原因で大火傷を負った。
直接の過失は、ステラ婆さんにあることは確かだが、しかしコーヒーをこぼしたくらいで、そんな大火傷になるはずがない。
そこでステラお婆さんは、大火傷になった原因は、マクドナルドのドライブスルーが提供したコーヒーの温度が、熱すぎたせいだと訴え出た。
実際、そのドライブスルーで提供されていたコーヒーの温度が、約85度という高温であった事が確認された。
コーヒーメーカで作られる一般的なコーヒーは70度から75度程度で、85度は明らかに高温すぎた。
さらにドライブスルーでは、熱いコーヒーに注意喚起しておらず、コーヒーが熱すぎるという苦情は、以前からマクドナルドに届いていたことも明らかにされた。
そこでこの裁判の陪審員達は、過失の20%はステラ婆さんにあるものの、残りの80%はマクドナルド側にあるという評決を下した。
ここまでは良いのだが、賠償金が巨額になった。
大火傷を負わせた直接の賠償金額が16万ドル(約1,600万円)。
さらに企業への懲罰的賠償金額が270万ドル(約2億7,000万円)。
つまり合計3億円近い賠償金の支払いが、この裁判で評決されたのだ。
熱いコーヒーで火傷させた賠償金が3億円?ということで、この事件は世界に大々的に報道され、様々な議論が巻き起こった。
では一体、どういう根拠で、こんな高額の賠償金額が評決されたのだろう。
実はここに、アンカリング効果が発揮された。
賠償金3億円の根拠
このマクドナルド・コーヒー事件で、お婆さんの火傷の治療や慰謝料に関しては、16万ドル(約1,600万円)が評決された。
これは同様の大火傷の治療費・慰謝料の相場が20万ドル(約2,000万円)だったので、その8割に当たる金額だった。
さらに再発防止のために、企業に対する懲罰的賠償金額が課せられることになったのだが、これをいくらにするかが問題となった。
これには叩き台となる金額が何もなかった。
そこでステラ婆さんの弁護を担当したリード・モーガン弁護士は、ある提案を行った。
それは、マクドナルドのコーヒー世界売上げ金額の1日分か2日分ではどうか?と言うものだった。
併せて、マクドナルドは、世界中でコーヒーを毎日、約135万ドル売り上げているということを示し、これを基準に考えてはどうかという風に、陪審員に提案を行った。
この賠償金によって、世界中のコーヒーの温度が適正になり、大火傷を負う人がいなくなるなら、この懲罰的賠償金は妥当だろう、と。
そうしてこのマクドナルド・コーヒー事件の陪審員達は、コーヒー売上げ2日分が賠償金額として妥当だという評決を出し、270万ドルを懲罰的賠償金額としたのだ。
もちろん陪審員達も、この賠償金額は高すぎると考えていたかも知れない。
しかしこの裁判を通じて、企業側は陪審員達の心証を悪くしていた。
ステラお婆さんの治療費は、皮膚移植手術などで、実際に1万ドルかかっているにもかかわらず、、企業側はわずか800ドルしか支払うつもりがなかった。
またコーヒーが熱すぎるという苦情は、過去10年間に700件あったが、取るに足らない苦情だとして無視していたり、問題はないという発言を行っていた。
そこで企業側の対応が悪質であるとして、陪審員は3億円の賠償金額を評決したわけだ。
この裁判は結局、上級審で和解が成立し、企業側は60万ドル弱(約6,000万円弱)の賠償金を支払ったという。